シンポジウム『大学共同利用を基礎とした,宇宙科学・探査のより良い発展に向けて』

趣旨

学術会議シンポジウム・『大型プロジェクトと大学の関係』に向けたパイロットシンポジウム,

『大学共同利用を基礎とした,宇宙科学・探査のより良い発展に向けて』

 

 大学共同利用機関を中心として行われている大型プロジェクトの実施のありかたについて,さらなる発展を目指したシンポジウムを開催いたします.

 これまで日本では,大学共同利用というユニークなシステムが機能し,日本の学術発展に大きな寄与をしてきました.しかし,大学及び大学共同利用機関が法人化され,法人単位での評価を受ける事になった結果,当該機関の成果につながる研究に対する見方が厳しくなるとともに,短期的な視点における成果を強く求められる状況となりつつあります.このことは,大学共同利用機関と大学との関係に変化をもたらすものであり,本来は大学の研究者が,当事者としてコミュニティー全体の活動として行う,本来の共同利用の場としての大学共同利用機関が,大学側,大学共同利用機関側がそれぞれの立場としての成果を求められる結果,大学共同利用機関をハブとして,大学の研究者が研究活動を行う事に対して,資金的・人的リソース及び成果を取り合うなどの状況も生まれつつあります.

 一方多くの若手研究者が任期付きのポストに就くことが常態化しつつある現状において,パーマネントポストを得るまでの期間は論文数偏重主義を背景に短期的な成果を重視した活動に専念せざるを得ない状況があり,若手研究者が,大規模なプロジェクトに飛び込む事への障壁が極めて大きくなってしまっています.このことは,大学において実践的プロジェクトを通した将来のリーダー育成を極めて困難にしつつあり,プロジェクトに関わる若手研究者のキャリアパスのあり方について学術コミュニティー全体での議論が必要と思われます.これらの結果,大学共同利用機関も従来通りのスタンスを続ける事自体が困難になりつつある状況があり,大学の研究者が大型プロジェクトにおいて活躍できる事に対しては,ネガティブな要因が強まりつつあります.

 一方,幾つかの分野では,プロジェクト規模に対するスケールメリットを有する,または大規模なプロジェクトを必要とする研究分野が存在しており,このこと自体が大学共同利用機関を設置する背景でもありますが,現在では大学と大学共同利用機関が連携して大型プロジェクトを実行することに困難な状況をもたらしつつあります.

 以上を踏まえ,大規模なプロジェクトを立ち上げ,遂行するためには,大学側,大学共同利用機関側について,それぞれどのような役割が定義されるべきかを共有し,より良い関係で共同研究を推進するための『あるべき姿』を共有し,研究者コミュニティーにおける合意を形成しておく事は非常に重要と考えられます.特に大学共同利用機関は,現在の状況において,どのようにあるべきかについての議論が必要であり,今後の議論をまとめ,提言として共有すべき内容と考えられます.科学分野における大型プロジェクトを進めるに当たり,日本の学術コミュニティー全体において成果を最大化するための学術経営的な視点の議論も考慮すべき内容であると思われます.

 以上の内容が,学術会議において『大型プロジェクトと大学の関係』シンポジウムの開催に向け,94日に開催された物理学委員会(8)及び96日に開催された物理学委員会 IAU分科会(10)・物理学委員会 天文学・宇宙物理学分科会(10 )合同分科会において紹介され,夫々の分科会において議論を経て開催を進めることに合意が得られました.また大型プロジェクトを有する代表的な分野である,天文学・宇宙物理学分野と高エネルギー物理学分野については,パイロット的に分野にフォーカスしたシンポジウムを開催し,そこにおける議論に基づき,学術会議シンポジウムを準備する方向となりました.

 これを受けて,宇宙科学分野に特化したパイロットシンポジウムの開催を行います.これまで日本の宇宙科学分野は,非常にユニークな形の発展を遂げてきており、その大学連携拠点としての宇宙科学研究所は、少ない予算で世界的な成果を挙げる驚異の研究所との評価を得てきました。しかし、確実に成功することを要請される政府のロケット・衛星を研究開発する旧宇宙開発事業団との合併以来、宇宙科学探査分野が従来持っていた挑戦的な姿勢がややもすれば失われ、また文書作業などの管理業務の増大により、現場の実践的な作業による人材育成が損なわれつつあるとの批判も聞かれます。またプロジェクトの規模が大きくなることによるマネジメント手法の変化の是非や、巨大化する世界の宇宙科学探査プロジェクトの中での日本の戦略についても大いに議論が必要になっているとの指摘もあります。今後も持続的な発展をより良い形で進めるに当たり,忌憚ない意見を交換できる場を持ち,その中で示された課題を提言として,その中で学術分野に一般化される課題と分野に特化した課題を整理し,学術会議の本シンポジウムに向けて提言化することを目的としています.

概要

日   時: 2017年10月20日(金) 9時~17時
場   所: 東京大学・本郷キャンパス・工学部8号館84講義室(地下1階)
ネットワーク中継:
       ネットワーク会議システムによる中継も行ないます。
       接続ご希望の際は、inquiries@cps-jp.orgまでご連絡ください。
       接続希望サイト多数の折には同一キャンパス内等、近傍でのサイト集約にご協力お願いすることもあります。

内容

  • 日本の宇宙科学の実行における,これまでの成功の背景と現状を踏まえた将来のあるべき姿
    • 歴史的変化と,欧米との比較と格差拡大を踏まえた日本独自の戦略
    • 大学共同利用による実行
    • 人材育成のあり方
    • 宇宙研・大学・企業の連携のあり方
    • 極めて高いリソースパフォーマンスの実現の方法
  • 学術コミュニティーの自立性と自在性
  • 学術分野を越えて,日本の宇宙開発における宇宙科学研究の重要性

プログラム

                  
09:00~09:15  本シンポジウムの開催について觀山正見 (広島大学/神戸大学)
09:15~09:45  宇宙科学研究所の位置づけを踏まえた課題の提示上野宗孝 (神戸大学)
09:45~10:15  大学共同利用機関と大学のあり方について
            宇宙科学研究所に期待するもの、大学が果たすべき役割
國枝秀世 (名古屋大学)
10:15~10:45  宇宙科学研究所への期待中須賀真一 (東京大学)
10:45~12:00  総合討論『宇宙科学・探査のより良い発展に向けて』
13:30~14:00  JAXA における大学共同利用による学術研究実行吉田哲也 (宇宙科学研究所)
14:00~14:30  大学の立場から見た,宇宙科学研究所の役割金田英宏 (名古屋大学)
14:30~15:00  宇宙研と大学の望ましい関係笠原次郎 (名古屋大学)
15:10~16:20  総合討論『大学共同利用と宇宙科学研究所』
16:20~16:40  全体総括觀山正見 (広島大学/神戸大学)



シンポジウム発起人:
中須賀真一,船瀬 龍 (東京大学),牧島一夫 (理化学研究所)
藤井孝蔵 (東京理科大学),芝井 広 (大阪大学)
上野宗孝 (神戸大学)  ,觀山正見 (広島大学/神戸大学)