アブストラクト |
マントル中の熱収支は地球化学によるMORB(中央海嶺玄武岩)物質の分析と表面熱流量の観測とでは大きな隔たりがある。これはMORB物質から"失われた熱源"の寄与が重要であると考えられている。この"失われた熱源"は下部マントルに存在している温度による強い不均質を隠す組成不均質の原因となっている高密度物質に濃集していることが示唆されている。この高密度物質の分布については風船状構造とドーム状構造の2つの構造が共存していることが "失われた熱源" がない場合におけるマントル対流の数値モデルから示唆されている。そこで、本研究では下部マントルに存在していると考えられている高密度物質に "失われた熱源" 濃集している場合について組成異常の分布状態とその温度・組成分布が作る地震波速度構造についてマントル対流数値モデルを用いて調べた。
その結果、高密度物質の分布はドーム状構造より、風船状構造が卓越することが分かった。これは高密度物質が加熱源を持っていることから周囲より高温になり、粘性率が温度依存性をよって下がってしまい、周囲の運動の時間スケールより短い時間スケールで運動できることことによってドーム状構造が破壊された結果であると考えられる。また、地震波速度構造については不均質マップや動径相関関数から組成不均質の強さが温度不均質の0.65から0.9倍程度の強さであるとき、 下部マントル中程の強い温度不均質構造が組成不均質構造によって隠される。 |