アブストラクト |
火星におけるCO2循環は主に、大気と南北両極冠との間のCO2交換によって形成されている。したがって火星の場合、極冠を中心とした視点から大気大循環を研究することは非常に重要なことである。数値シミュレーションではLeighton and Murrayモデルが実際に火星の両極で冬にCO2が凍結することを証明し、さらに大気と極冠との間のCO2交換によって火星大気圧が大きく変動することを予想した。実際その後のVikingの観測によって、火星の大気圧が年間約25%も変動することが解析の結果示された。しかし同時に火星の永久極冠のうち、北極冠にはCO2 iceが含まれていないのに対し、 南極冠には含まれていることが地表面温度の測定結果から示された。これは南北両極で、夏にはCO2 iceはすべて昇華してしまうというLeighton and Murrayモデルの結果とは矛盾することになる。さらに南半球の夏は火星の公転軌道で言えば近日点にあたり、 したがって南半球の夏の方が北半球の夏よりも太陽からの入射エネルギーが多い。つまりCO2 iceが南極に残って、北極に残らないのは公転軌道から考えても矛盾することになるのである。 この疑問を解決するために二つの要因を考えた。 一つは南半球の夏に発生するダストストームの影響である。これによって太陽放射が吸収され、 地表面温度が上がりにくくなると考えられる。二つ目は南北半球の地表面アルベドの違いである。 南半球の地表面アルベドが北半球よりも高ければ、 それだけ地表面が吸収する太陽放射も減少し、したがって地表面温度が上がるのを妨げるというシナリオが考えられる。この原因を特定するため一次元の熱収支モデルをつかって、 極冠の季節変動をシ
ミュレーションした。その結果、 いまのところ観測によって明らかになっている火星大気中のダスト量では南極にCO2 iceを残すことはできず、地表面アルベドの違いの方が有効であることがわかった。 |