アブストラクト |
沈み込みプレート境界に沿って発生する巨大地震は、地震動や津波による甚大な被害を人類にもたらす。21世紀以降、地震・測地観測によりスロー地震と呼ばれる通常の地震性高速すべりと定常すべりの間の中間の挙動を示す断層すべりが報告され、巨大地震震源域の上限側と下限側で頻繁に発生していることが明らかになった。繰り返し発生するスロー地震は、固着域にひずみをため巨大地震を引き起こす原因としても注目されている。このように沈み込み帯で発生する巨大地震やスロー地震の理解は重要であるにもかかわらず、地震の発生環境、ダイナミクス、変形メカニズムは良く分かっていなかった。これは主に、地質学的観察の欠如、巨大地震発生域やスロー地震発生域へのアクセスの難しさ、地球物理学的観測の空間分解能に限界があることに起因する。しかし、巨大地震やスロー地震発生深度で形成され現在地表に露出する断層岩、断層物質を用いた室内実験、深海掘削により、巨大地震やスロー地震発生過程を調べることが可能である。本セミナーでは、これら地質学的アプローチによってもたらされた主要な研究成果について紹介したい。特に、断層岩からどのようにして地震性すべりの証拠を見出したのか、地震時の断層における変形・物理メカニズムは何か、スロー地震を特徴づける地質学的・レオロジカル的特徴は何か、地質学的研究によりいかにして地震時のソースパラメータ(例えば地震時の断層強度)を定量的に見積もるのかについて紹介したい。 |