アブストラクト |
火星は自転周期や黄道傾斜角が地球のそれらと近い。一方、惑星半径は地球のそれの約半分であり、表面にも海がないなど地球とは大きく異なる特徴も持つ。このような条件下でどのような大気大循環が形成され、どのような大気波動が存在するのかを知ることは、地球や火星を含む様々な惑星大気の循環を統一的に理解するための第一歩となる。
今回我々は、火星大気中で観測される様々な現象の中から火星大気中で励起される熱潮汐波に注目した。熱潮汐波とは太陽放射による加熱によって励起される全球規模の大気波動である。これまでの探査機による観測から、火星大気中の熱潮汐波の振幅は非常に大きいことが知られている。このため、熱潮汐波は火星大気大循環の重要な要素の一つであると考えられており、風速や温度に大きな変動を生じさせるとともに、特定の条件下では強い子午面循環を駆動し、強い乱流混合を発生させることも示唆されている。しかし、これまでの研究は主に東西平均風や散逸効果を無視して大気の線形応答を調べる古典的潮汐理論 (classical tidal theory) に基づくものであった。そのため平均風や散逸効果が存在する現実の火星大気中の熱潮汐波の構造は過去の研究から示されているものとは大きく異なる可能性がある。今回は、火星大気大循環モデルと線形応答モデルを用いた数値実験の結果に基づき、火星において平均風や散逸過程がどのように熱潮汐波の構造を変形させるのかについて議論したい。 |