アブストラクト |
プレート沈み込み帯での火成活動や変形作用,物質循環を考える上で,堆積物・岩石における物質移動特性の多様性や異方性を評価することは重要である.日本のような変動帯地質岩体から構成される地質体での物質移動は,未変形な岩石と断層やクラックが発達した変形した岩石とで物質移動特性が大きく異なる.そこで,それぞれを独立に対象とした実験を計画し,物質移動特性に与える本質的な要素を調べた.
未変形な岩石では,岩種のもつ間隙の幾何学的特徴による物質移動特性の差が大きいため,移動特性と間隙の幾何学的特徴の関係を調べることが本質的と言える.実験の結果,イオンの実効拡散係数は間隙率のべき乗則(De = 0.83 x (間隙率)2.8 x Do:Doは自由水中のイオンの拡散係数)によって大まかに示されるが,ナノスケールの間隙をもつ試料ではその特異な水分子構造のため相対的に低い値を示す.これらが未変形な岩石での岩種による物質移動特性の多様性の原因である.
一方,変形した岩石においては,物質移動は断層やクラックなどの構造による影響を大きく受ける.特に,断層は水路になるときもあればシーリングとして機能するときもある.そのため,どのようなタイプの断層が物質移動に対してどのように機能するのかを明らかにすることが重要である.そこで,X線の吸収が弱い有機系材料のアクリル樹脂を用いて透水試験機を製作し,その試験機をX線CT装置の中に設置して,造影剤を透水させ,その移流像をCT装置で撮影する方法の開発を行い,よりリアルな物質移動と断層の変形機構との関係の追求を行った.その結果,砂岩に発達する断層では,砂粒子の破砕作用を含む断層では流体はトラップされ,シーリングとして機能するのに対し,含まないタイプの断層では,水路になった.すなわち,砂岩中の断層は粒子の破砕作用の有無が断層が物質移動特性に与える効果を決定すると言える.
さらに,以上の物質移動の素過程に関する結果を用いて,プレート沈み込み帯での脱水フラックスの定量的評価も行った.国際深海掘削計画第185次航海(伊豆-マリアナ海溝)に物性研究者として乗船し,そこでまさに海溝に沈み込もうとしている海洋地殻の掘削を行った.船上では掘削試料の間隙率や電気比抵抗,弾性波速度等の物性値を測定し,下船後は得られた試料を用いて沈み込む海洋プレート層序の透水・拡散係数の定量的評価を行った.間隙率と透水係数とのべき乗則を構築し,これを孔内計測による間隙率-深度プロファイルに導入し,掘削孔スケールでの透水係数-深度プロファイルを作成した.さらにプレート沈み込みにおいて,沈み込む間隙水のフラックスと脱水しうるフラックスの定量的評価を行った.
発表では以上の博士論文の結果の紹介のほかに,現在進めている地震発生帯深部掘削における物質科学的な研究についてお話しする予定です. |