アブストラクト |
北太平洋の主用な10年〜100年変動である,20年変動が20世紀始めには周期が短くかつ振幅が小さく,1930-50年に振幅が増大し周期が長くなったことは,Minobe (1999 Geophys Res Lett; 2000 Progr. Oceanogr.) や, その一部の和文解説であるhttp://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~minobe/papers/2000_gekkan_kaiyou.htmlで報告した.今回は,その周期がどのような空間構造の変動を伴っているかを報告する.
この研究では,まず,周期変動と関係する空間構造の変化を検出する,wavelet解析の拡張解析手法を開発した.通常のwavelet解析は,時間に限定された範囲に適用する比較的狭いpass-bandを持つバンドパスフィルターを,様々な周期に適用したものであるとも言える. もし,特定の周期だけについてウウェーブレット変換操作を施せば,普通のバンドパスフィルターとなんら変わるところはない.ということは,その特定の周期(バンドパスフィルターの透過周期帯の中心中期)を,現象の時間的な周期変化に追従させてやれば,その現象を効率よく他の周期帯の現象と分離できるだろう.このようにして作った,狭いpass-band を持ち中心周期を時間で変化させる,フィルターをMaximal Wavelet Filter(MWF) と名付けた.Maximalのゆえんは,通常のウェーブレット解析で得られたwavelet 係数の絶対値が最大となる周期をtraceするからである.MWFは数学的にも結構simpleな美しい形をしている.
この新たな解析手法を海面気圧に見られる北半球の20年変動に適用したところ,北太平洋において20年変動は20世紀始めにはアラスカ付近(70N)に中心を持ち,その後1930-1950年に南下して40Nに達し,最近は勢力がやや衰えていることが示された.北大西洋では北太平洋の20年変動と関係し得る20年変動は,逆に中緯度の振幅が弱まり高緯度の振幅が強まった.これらの変化の結果最近の20年変動は,北極振動と類似のパターンとなっている.さらに太平洋でのパターン変化は,関連する気温・海面水温の解析とも整合することが示された.なお,MWFで検出された海面気圧変動のアニメーションを,解説は英語だけだが, http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~minobe/bdo/で見ることができる.
最近Pacific Decadal Oscillation (PDO)という現象は,ニューヨークタイムズの一面に出るくらい注目を集めており,また例えばPDOの急激な符号反転である気候レジームシフトについて,エルゼビアの雑誌で特集号が組まれもしているhttp://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~minobe/cover_pio2000.htmlPDOの本質は20年変動と50年変動の重ね合わせであると考えられる(Minobe 1999; 2000).北太平洋の20年変動は50年変動と共に,20年変動が,その構造を変化させるということは,PDOを理解する上でも興味深い.特に1920以前は20年変動が中緯度では弱かったことから,1890年ころ50年変動の符号反転(Minobe 1997 GRL)は,レジームシフトの特徴である急峻な符号反転を伴っていなかったことが強く示唆される.
本研究は,Journal of Climate に印刷中である.
なお,北極振動の解説は,http://www.ec.hokudai.ac.jp/~minobe/Ocean_Climate_body.html#HAGYOU_LABEL15 にある. |