セミナー: CPS セミナー
日時: 2015 年 8 月 25 日(火)17:00-
場所: CPS (統合研究拠点3階) セミナー室
講演者: 羽生 毅 (海洋研究開発機構・主任研究員)
世話人: 林 祥介
タイトル: マントル内物質循環の「年代」に関する二つの制約
要旨: マントルの物質的不均質の要因は、スラブの沈み込みに伴って地球表層物質がマントルへ運びこまれることである。HIMUと呼ばれる特異な岩石化学組成を持つ海洋島玄武岩は、沈み込んだスラブがマグマ源となっている典型例とされ、HIMU玄武岩の成因の理解はマントル物質循環プロセスの解明に欠かせない。 そこで、太平洋と大西洋の海洋島に産出するHIMU玄武岩について高精度同位体分析を行い、両者の組成を比較した。その結果、Sr, Nd, Hf同位体比はきわめて似た値を示す一方、Pb同位体のうち207Pb/204Pbが系統的に異なることが分かった。Pb同位体の進化モデルを適用すると、HIMUの形成年代、すなわちスラブの「平均的な沈み込み年代」はおよそ20億年であるものの、太平洋と大西洋下のHIMUの形成年代には約3億年の差があることになる。このみかけの年代差が意味することは、(現在の)太平洋下のマントルに貯蔵されているスラブ物質は大西洋下のものより相対的に若く、しかも両者は20億年もの間混合することなく独立に存在してきたことである。 一方、別のPb同位体である206Pb/204Pbと208Pb/204Pbを用いるとHIMUのTh/U比を求めることができる。一般的に沈み込む海洋地殻は熱水変質作用を受けており、Th/Uは熱水の酸化還元状態に敏感である。Pb同位体から求められたHIMUのTh/Uは、現在の酸化的な海洋とは異なり熱水変質が還元的な環境で起きたことを示唆している。すなわちHIMUの形成年代として、約20数億年前に起きたGreat Oxidation Event以前であったと結論される。
キーワード: マントル進化、物質循環、年代、海洋島玄武岩、古環境