日時: 2009 年 7月 8日(水) 16:30 − 18:00
場所: 北海道大学理学 8 号館コスモスタジオ,
神戸大学自然科学総合研究棟 3 号館 508 号室,
会津大学,
千葉工業大学,
東京大学,
岡山大学,
(ビデオ会議システムを用いて中継予定)
講演者: 中村 良介 (産業技術総合研究所)
タイトル: 南極=エイトケン盆地では、月のマントルが掘り起こされているか?
概要: 南極=エイトケン盆地は月の裏側/南半球に存在する、太陽系内で最も大きな 衝突構造のひとつである。一般的な衝突理論による掘削深さを考えると、南極 =エイトケン盆地では、斜長石に富んだ地殻は完全に剥ぎ取られ、その下にあ るマントルが露出しているはずである。しかし、過去のガリレオやクレメンタ イン探査機による観測では、南極=エイトケン盆地内に明確にマントル起原と 同定できる領域は見つかっていない。そこで我々は、「かぐや」に搭載された 分光計および多色カメラを用いて、南極=エイトケン地下深く(5〜25km)の物 質が露出していると考えられる、クレーターの中央丘の組成を系統的に調べた。 その結果、Antoniadi http://www.youtube.com/watch?v=5c1T2oKEffQ&feature=channel をはじめとする4つのクレーターが、非常に斜方輝石に富んだ物質で構成されて いることが明らかになった。この物質は、南極=エイトケン盆地をつくった衝 突によってマントルが大規模に溶融し、再固結したものだと考えられる。つま り月の裏側においては、南極=エイトケン盆地が形成される以前(>40億年?) に、100〜500km 程度の深さに、斜方輝石に富むマントルが存在していたことに なる。これは ・マグマオーシャンの深さ ・マグマオーシャンの固結モード(平衡 OR 分別) ・南極=エイトケン盆地を形成した衝突の掘削深さ/溶融量 ・マグマオーシャン固結後のマントルオーバーターン ・月の熱史を支配する KREEP の行方 ・月のバルク組成 などについて、大きな制約となる。 地球のマントルは、斜方輝石よりもかんらん石に富むと考えられているが、小 惑星ベスタのマントル起原とされるダイオジェナイト隕石は、斜方輝石に富む。 今回の月のマントル組成に関する新たな観測結果をもとに、固体惑星/小惑星 のマントル組成が、その天体のバルク組成や熱進化をどう反映しているかにつ いて議論する。