アブストラクト |
バンクーバーオリンピック競技種目でもあるカーリングは, 「氷上のチェス」 との異名を持つ知力と体力, そして緻密な技術を要するスポーツである. 競技を白熱させる要素の一つは, 氷上で見せるカーリングストーンの曲がる動きである. しかしながらこのストーンの動作メカニズムについては, まだ十分な理解が得られていない. 今回のセミナーでは, この氷上でのカーリングストーンの動作メカニズムについて, 二名の専門家に解説を行なっていただく.
第二部: ストーンは何故曲がるのか (前野 紀一)
氷上でのカーリングストーンの曲がりの物理メカニズムに関しては, Jhonston(1981) の「圧力差モデル」、Shegelski達(1996)の「水膜モデル」, Denny(2000)の 「雪かきモデル」等、幾つか提出されている. いずれのモデルも. 氷とストーンの摩擦係数が前面より後面で大きくなるためストーンの運動を曲げる外力が発生すると考える. しかしこれらのモデルにはいろいろの不合理が指摘されており, 特に, 曲がり幅がストーンの回転数に比例して増えるという結果は経験とあわない. 今回紹介する「蒸発-摩耗モデル」はカーリングの最大の特徴である. デコボコの氷(ぺブル), 重さ 20 kg のストーン, およびストーンの底の形状 (ランニングバンド), の3点に着目して組立てられた(Maeno,2010). ストーン前部と後部の氷摩擦係数の差は, ストーンの前半分が通過する時に発生した薄い水膜が蒸発し, 氷面の温度が低下することによって生じる. このモデルでは曲がり幅はストーンの回転数に依存しない. 講演では, これらのモデルについて解説し, モデル検証のために計画している実験の概要を紹介する.
参考文献:
N. Maeno, 2010: Curl Mechanism of a Curling Stone on Ice Pebbles. BGR 28, 1-6, http://www.seppyo.org/~bgr/bgr.sjis.html |