第 3 回 CPS 衝突実験実習 テーマA

レーザーアブレーションによる衝突蒸気の高速分光実験

実験結果

<サンプル:C1>

図2:サンプルC1

サンプルC1は右の写真にあるように濃い灰色をした岩石である。全体的に緻密な組織からできているように見え、所々に白色の鉱物も確認できる。
また、ガスが抜けたと思われるミリ以下の小さな穴も全体に点在する。

サンプルC1から得られたスペクトルは以下のようになった。

図3:サンプルC1の分光スペクトル


このスペクトルでは、FeやCaのピークが多く見られる。その他にもAlやMgと思われる波長でもピークが複数確認できる。

以下のグラフは、それぞれのピークから作成したボルツマンプロットである。それぞれの元素についてグラフから見積もったプラズマの温度と存在比は右の表にまとめてある。
プラズマの温度はいずれの元素でも9000K付近の値となった。Feを基準としてみた存在比では、MgがCa よりもやや多いことが分かった。





T [K] 存在比
Fe 8.5×103 1
Ca 8.3×103 0.94
Mg 9.0×103 0.96


<サンプル:C2>

図4:サンプルC2

サンプルC2はC1よく似ており、同様に濃い灰色の岩石である。しかし、脱ガスした際にできたと思われる穴の大きさがC1に比べて大きく、1cmほどのものも存在する。
全体的に均質な組織をしている。

サンプルC2から得られたスペクトルは以下のようになった。

図5:サンプルC2の分光スペクトル


スペクトルの全体的な形やピークの波長はC1のスペクトルと非常に良く似ている。C1でも見られるFeやCaのピークが多く存在する。AlやMgについても同じような波長でピークが確認できる。

以下のグラフは、C2のスペクトルから作成したボルツマンプロットである。右の表はそれぞれの元素についてグラフから見積もったプラズマの温度と存在比である。

プラズマの温度は各元素で数100K差があるが全体を見ると8000〜9000Kの範囲で収まっている。元素の存在比については、Feに対してMgが1に近い結果となった。一方、Caについてはそれらの2つの元素に比べて少ないことが分かった。





T [K] 存在比
Fe 9.1×103 1
Ca 9.9×103 0.91
Mg 8.2×103 0.98
 

<サンプル:C3>

図6:サンプルC3

サンプルC3もC1やC2に非常に良く似た様相をしているが、どちらかと言えばC2に近い様相をしている。全体的に灰色な組織に点々と白色の鉱物が見られる。
脱ガスの小さな穴も全体に確認できる。大きさはC2よりも小さく、全体的にそろっている。

サンプルC3から得られたスペクトルは以下のようになった。

図7:サンプルC3の分光スペクトル


スペクトルについてもC1やC2によく似ており、見られるピークの位置も同じである。Fe、Ca、Al、Mgのピークが確認できる。

このスペクトルから作成したボルツマンプロットが以下の図である。プラズマの温度と存在比は右の表にまとめてある。

プラズマの温度では先ほどの2つに比べて1000k程低く、約8000K付近の値を取っている。存在比についてはFeに対するMgの比が同じであるが、C2に比べてCaが多くなっていることが分かる。





T [K] 存在比
Fe 8.1×103 1
Ca 7.8×103 0.94
Mg 7.5×103 0.98
 

<サンプル:C4>

図8:サンプルC4

サンプルC4は他のサンプルと異なり、全体が白色の岩石である。
表面の一部に橙色の部分があるが、 ガスが抜けたと思われる穴はなく一つの鉱物のような外見をしている。

サンプルC4のスペクトルは以下のようになった。

図9:サンプルC4の分光スペクトル


スペクトルでも他のサンプルと異なり、FeやAlのものと思われるピークが見られない。一方、Caでは特にはっきりとしたピークが確認できる。Mgについては他と同じようにピークが見られる。

このスペクトルのボルツマンプロットは以下のようになった。Ca,Mg元素についてのプラズマ温度と存在比は右の表にある。

プラズマの温度はどちらの元素も6000K付近で他と比較すると低い値となった。元素の存在度については、他のサンプルと異なり、MgよりもCaの方が多く含まれていることが分かった。





T [K] 存在比
Ca 6.0×103 1
Mg 6.6×103 0.97

 

考察

<岩石の特定>

サンプルC1、C2、C3について今回の分光実験では、スペクトルからの元素同定では特徴的な元素によるスペクトルは見られず、FeやCa、Alなど岩石に含まれている一般的な元素についてのスペクトルしか確認できなかった。そこから考えると、今回のサンプルは一般的に存在するありふれた岩石の可能性が高い。
また、それら3つのサンプルには有色鉱物が多く含まれていることと表面に脱ガスの痕跡と思われる小さな穴が存在するということからも考えると、火山性の岩石である可能性が高く、特にその中でも玄武岩や安山岩に近い岩石であるとことが推測される。

サンプルC4については、他のサンプルとは異なり、FeやAlのものと思われるスペクトルが見られなかった。特に顕著に見られたスペクトルはCaによるものである。岩石全体も白色で有色鉱物が少なく、小さな穴も見られない。これらの特徴から、このサンプルC4は炭酸塩岩である可能性が大きい。ただし、MgについてもCaと同様に含まれていることを考慮するとドロマイトである可能性も考えられる。

<惑星の推定>

今回の分光実験を行ったサンプルはおそらく玄武岩、安山岩、炭酸塩岩であると考えられる。これらの岩石は一般的なため、岩石種のみで月、水星、火星、金星のどの惑星が起源かを特定するのは難しい。ただ逆に、特徴的な元素によるスペクトルが見られなかったという点から可能性を除くいてゆくと、月と火星である可能性は低いと推測できる。月の場合は、玄武岩に含まれるイルメナイトのTiによるスペクトルが検出されるはずである。サンプルC4についてもAlのスペクトルが見られないことから斜長岩である可能性は低い。

また、火星については赤鉄鉱を含む特徴的な赤い岩石がサンプルに含まれていなかったことと、S(硫黄)のスペクトルが見られないことからも火星で見られる硫酸塩岩ではないと考えられる。

故に、水星と金星の2つに絞ることができる。水星の地殻成分については詳しく知られていないが、かつての隕石衝突によって表層の岩石部分が削られたために岩石成分に比べて金属の割合が大きいと言われている。そのため、サンプルが水星から持ち帰られたとすると、もう少しFeの割合が大きいことが期待される。しかし、今回分析した元素存在度からはFeが特に多いという特徴は見られなかった。このことが正しいとすれば、サンプルは水星起源である可能性は低いと考えられる。

よって、以上から、今回実験で用いたサンプルは残る金星から持ち帰られたと推測できる。

Last modified: 11.01.12
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