アブストラクト |
ぽっかり口を開けた火口の向こうにお菓子工場の家屋が見える。噴火して以来、遠くからしか様子を伺うことが出来なかった建物が、すぐ目の前に痛ましい姿で横たわっている。橙色の壁面の他は、全てが火山灰に覆われ周囲の色と同化している。噴火から一年。山は平穏さを取り戻し、草木は新芽を吹き再生への営みを開始している。しかし、この建物の周りだけは、時間が止まっているかのように噴火の被害を生々しく留めている。
すぐそばまで近寄ってみる。想像した以上の壊れように圧倒される。火口に近い屋根は火山灰の重みに耐え切れず、反り返るように押し潰されている。ところどころに噴石によるものか、いくつも穴が屋根を貫いている。まさか火口がこんなすぐそばに出来ようとは!これが有珠山の他の火山にはない特殊性でもあり、恐ろしいところでもある。
建物の西側は数箇所で折れ曲がっているのが確認できる。建物は長方形をしており、その長い辺を南北方向にして立っている。火口に近い北側は上の写真にあるように潰れてしまっている。残されたわずか20〜30mの壁に断層による亀裂がいくつか走っている。この辺りの断層は東西方向に伸び、この家屋を土台から傾かせた。この他にも、断層によって傾いてしまった住宅なども多く、散乱し泥をかぶった家財道具を見ると言葉を失う。(文/中神 雄一) |